ベトナムから日本への介護職ベトナム人技能実習生受け入れの難しさ1

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ベトナムから日本への介護職ベトナム人技能実習生受け入れの難しさ1

1. 2016年の法改正により、今後、日本で介護職に就く外国人が働けるようになるようです

 当社/当センターのブログをお読みいただいている方々はすでにご存知のことかと思われますが、昨年(2016年)11月、外国人の在留資格に「介護」を新設する等の改正が含まれる「出入国管理及び難民認定法入管法)」の改正法案が可決されました。

 先日の介護職の留学生に関するエントリー、
http://d.hatena.ne.jp/anhsao/20170418/
日本での介護職を希望するベトナム人留学生受け入れの際注意すべきことは?
でも触れましたが、その法改正により、日本で介護福祉士の資格を取得した外国人が日本で働けるようになるようになったというだけではなく、外国人技能実習生の実習できる分野に介護が加わることにもなるようです。

 すでによくご存知の方々はすみません、よくご存知ではないという方々は、下記の法務省のページや新聞の報道等もご確認いただけないでしょうか。

http://www.immi-moj.go.jp/hourei/h28_kaisei.html
平成28年入管法改正について

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00010.html
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案

http://www.asahi.com/articles/ASJCK5FQRJCKUTIL01R.html
介護、外国人受け入れ拡大へ 法案、今国会成立の見通し

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS18H5J_Y6A111C1EA2000/
外国人労働、まず介護から 改正入管法成立

2. ベトナムから日本への介護職ベトナム人技能実習生受け入れる際の日本側の問題点

 現時点(2017年4月下旬の時点)で当社/当センターが把握している範囲では、外国人技能実習生受け入れ決定の法律が決まるまでは、様々な紆余曲折があったようですが、その中でも、重要な論点として、外国人介護士技能実習生として受け入れることがほんとうに適切なのかどうかということ、そして、技能実習生として受け入れた場合に介護の仕事ができる日本語能力や労働スキルを身に付けられるのかということが論じられたようです。もっとも、論じられたようであるものの、十分な議論が尽くされないまま、法案が可決されてしまったという感がなくはないようにも思われます。

 以下、上記の2つの問題を、一般的に介護職として外国人技能実習生として受け入れる際の問題として、また、要所では適宜、ベトナムベトナム人を受け入れる際の問題としても、詳しく取り上げてみます。

3. ベトナム人を介護職の技能実習生として受け入れることがそもそも適切なのかという問題

 技能実習生業界関係者以外の方々にも比較的よく知られていることとして、大半の場合、外国人技能実習生は、建前としては日本で「実習」を行うこととなっているということのようですが、その「実習」がほんとうに「実習」と呼べるような実質があるかどうかは、疑問視されることも多いようである、ということがあります。

 当社/当センターが把握しているかぎりでも、日本の技能実習生の監理団体関係者の方々も、技能実習生を受け入れている企業関係者(や農家)の方々も、実習生受け入れは建前としては「実習」ということになっているだけで、その本質はあくまでも人員不足の解決手段の1つであると思われている方々が多いようです。また、技能実習生には(各都道府県が定めている)法定最低賃金で単純な労働に従事してもらっているのだというご認識をお持ちの方々がけっして少なくないのではないかと思われます。

 特に介護分野に関して、ベトナムをはじめとする日本の周辺の東アジア諸国、東南アジア諸国では、中国の一部の地域の一部の社会階層(や韓国、台湾)などを別として、大半の場合は高齢者の世話や介護をその高齢者の家族や親戚が行っているようであるということがあるようで、日本のように介護保険制度が制定され介護施設で高齢者の世話や介護を行うような社会ではない(、または、そのような社会にはなっていない)のではないか、ということがあります。

 ベトナムの場合、大家族制が比較的維持されており、その点から考えても、たとえベトナム政府が全国各地に介護施設を建てたとしても、利用者はそれほど多くないものと思われ、介護施設として採算が取れるほど利用者が見込めないという可能性が高いように思われます。

 その他の点として、ベトナムの場合、2017年の時点では若年層が比較的多い人口構成の国家だということもあり、近い将来だけではなくやや遠い将来も、日本のように介護施設で高齢者の介護を行うことが一般化するとは相当考えにくいと思われる、ということがあるように考えられます。

 そのような状況のベトナムをはじめとする東南アジア諸国や中国から、介護の外国人技能実習生を受け入れることになったとしても、数年後に自国に帰国する外国人技能実習生が、数年間の介護の「実習」で得られた経験や技能を自国で活用できる見込みがあるのでしょうか。

 ベトナムの場合、上記のように、若年層が多数を占める人口構成、大家族制が比較的維持されており高齢者の面倒は家族や親戚が見るという社会習慣があるため、現在職業としての介護がほとんど需要がないようであるというだけではなく、少なくとも今後十数年から二十年前後は、介護の仕事が際立って増加する見込みはあまり可能性がないのではないかと考えてよいのではないかと判断しております。

 もし介護の「実習」で得られた経験や技能を自国で活用できる見込みが非常に薄いということであれば、日本で介護分野の技能実習生を受け入れる「実習」という名目は、介護分野の技能実習生の受け入れが実際に行われる以前に、すでに形骸化していると言わざるをえないのではないでしょうか。

4. 介護分野の技能実習生として受け入れる外国人の日本語能力の問題

 前述のように、技能実習生として介護職の外国人を受け入れは、それまでの既存の実習分野とは相当性格が大きく異なっていることから、様々な論議を呼びました。一番大きな問題として、介護分野は対人サービスの仕事が相当多くを占めることになることが想定されるため、外国人の技能実習生(候補者)が介護の仕事ができる日本語能力や労働スキルを身に付けられるのか、ということが論じられたようです。

 日本国内、日本国外の日本語教育関係者の方々は、相当高度なレベルな日本語能力が時として必要とされるであろう介護という仕事の性格から、技能実習生として介護職の外国人受け入れには反対であるというご意見やご見解を表明されている方々が少なくなかったように思われ、そして、それほど高くない日本語能力しか持っていない外国人技能実習生の受け入れに対して懸念されるご意見やご見解をお持ちの方々が多かった(多い)ように思われます。

 当社/当センターが知っている範囲に過ぎませんが、日本語教育業界では『できる日本語』という教科書の製作者としても著名な一般社団法人アクラス日本語教育研究所の嶋田和子氏のブログ、下記エントリー、

http://www.acras.jp/?p=3688
介護分野に「外国人技能実習制度」導入、もっと慎重に!〜日本語力をどう考える?〜

http://www.acras.jp/?p=2730
首相の「外国人材活用」案に疑問符!

では、より慎重に対応すべきではないかという内容の意見が述べられているようです。

 また、NPO法人多文化共生子ども・若者プラットフォームというNPOの田中宝紀氏という方のブログ、下記のエントリー、

http://ameblo.jp/tanaka-iki/entry-11982609089.html
介護分野への外国人実習生受け入れ‐日本語の力「N4」レベルとは・・・

では、そもそも技能実習生としての介護職の外国人受け入れに反対であること、日本語能力N4に合格できるレベルという基準で受け入れるのは大きな問題があるのではないかということがわかりやすく主張されています。

 形式的な短い文章ではあるのですが、公益社団法人日本語教育学会という日本語教育の学会が

http://www.nkg.or.jp/oshirase/2015/kaichoseimei.pdf
技能実習生としての外国人介護人材受入れについて

という一文を公表した、ということもあったようです。

 しかしながら、当エントリーをお読みの多くの方々がご存知のように、厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000073122.pdf
外国人介護人材受け入れの在り方に関する検討会中間まとめ

にある下記の箇所にほぼ沿う形で、介護分野の技能実習生は、日本入国前に(最低でも)日本語能力試験のN4合格か合格に相当する日本語能力を身に付けておくこと、そして、実習2年目までに日本語能力試験のN3合格か合格に相当する日本語能力を身に付けることが必要である、ということが決定されたようです。

 現在、技能実習制度の対象職種において、技能実習生に日本語能力の要件を課している例はないが、介護分野においては、一定の日本語能力を要件とすべきである。
………
(中略)
………

 具体的には、1年目(入国時)は、業務の到達水準として「指示の下であれば、決められた手順等に従って、基本的な介護を実践できるレベル」を想定することから、「基本的な日本語を理解することができる」水準である「N4」
程度を要件として課し、さらに、「N3」程度を望ましい水準として、個々の事業者や実習生の自主的な努力を求め、2年目の業務への円滑な移行を図ることとする。
また、実習2年目(2号)については、到達水準として「指示の下であれば、利用者の心身の状況に応じた介護を一定程度実践できるレベル」を想定することから、「N3」程度を2号移行時の要件とする。

5. 介護分野の技能実習生受け入れの基準とされた日本語能力試験技能実習生の日本語能力を判定する試験として適当か?

 当エントリーの最初のほうで十分な議論が尽くされないまま法案が可決されてしまったという感がなくはないようにも思われると述べたことに関して、当社/当センターは、介護分野の技能実習生に必要と思われる日本語能力はどのようなものであるかが十分に議論されず、外国人が受験する日本語資格試験として一番有名な日本語能力試験(JLPT)が、介護分野の技能実習生の日本語能力を判断する基準としても採用されてしまったことの問題点を指摘したいと思います。

 外国人が受験する日本語の資格試験として一番有名な日本語能力試験(JLPT)は、独立行政法人国際交流基金と公益財団法人日本国際教育支援協会が実施する試験であり、公式のウェブサイトは下記のもののようです。

http://www.jlpt.jp/
日本語能力試験 JLPT

 上記のウェブサイト中の下記ページ

http://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html
N1〜N5:認定の目安

のN4レベルの説明には、

N4
基本的な日本語を理解することができる

読む
・基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。

聞く
・日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。

とあり、また、、N3レベルの説明には、

N3
日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる

読む
・日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を、読んで理解することができる。
・新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる。
・日常的な場面で目にする範囲の難易度がやや高い文章は、言い換え表現が与えられれば、要旨を理解することができる。

聞く
・日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる。

とあります。

 つまり、公式ウェブサイト中に掲載されている上記の試験の説明を一読しただけでもわかることですし、より具体的には公開されているサンプルの試験問題をチェックしていただければよりよくご理解いただけるのではないかと思われるのですが、現行の日本語能力試験は、文法や語彙の正確な知識、聴解能力や読解能力という理解能力を問う出題が中心となっている一方で、会話能力を問う問題や記述の問題など運用能力を問う出題はありません。試験の回答形式もマークシートであり、4つ、または、3つの選択肢から1つ正しいと思われる選択肢をマークするという形のものです。

 対人のコミュニケーションで日本語が相当の頻度で必要であろう介護分野の技能実習生の日本語能力を判定するために、会話試験がまったくない試験はふさわしいのでしょうか。

 もちろん、現行の日本語能力試験は、文法や語彙の正確な知識、聴解能力や読解能力という理解能力を問う問題であるものの、けっして少なくはない日本国内、日本国外の日本語学習者にとっては、自分の実力を知るために有力な基準に成り得るものではないか、と思われます。しかし、現行の日本語能力試験(JLPT)は、会話の試験や記述の試験がないため、日本語の理解能力を主に判定するという試験であるという大きな限界を持っていることはあらかじめ承知し理解しておく必要があるのではないでしょうか。

 当社/当センターは、前述のような限界がある日本語能力試験が介護分野の技能実習生の日本語能力を判定する基準としてふさわしいようには思えず、日本語能力試験(JLPT)が介護分野の技能実習生の日本語能力を判断する試験としても採用されたことは疑問に思わざるをえません。

 当社/当センターの関係者がお世話になっている日本語教師の方からは、介護分野の技能実習生の場合、日本の生活常識、日本人の行動スタイルへの理解が必要であり、言語面で重要なのは、日本語能力試験に合格するかどうかということというよりも、(どちらかといえば、)会話能力(より正確には、日本語運用能力)なのではないのか、というような内容のご意見をいただいています。

 当社/当センターの知っている範囲では、特に介護分野の技能実習生に限定されて考えられているわけではないように見受けましたが、Twitter等で技能実習生を対象に会話能力を中心として総合的な日本語能力を判定する試験を作成し実施したらよいのではないか、というような内容のご提案されている方(方々?)もいらっしゃるようです。

 当社/当センターとしましては、上記の当社/当センターがとてもお世話になっている日本語教師の方のご意見に合わせる形で、介護分野やその他の分野で対人サービスを行う必要がある技能実習生や留学生(その対人サービスに従事している元技能実習生や元留学生も含めることとします)の日本語能力やコミュニケーション能力を判定するために、日本語の会話能力(より正確には、日本語運用能力)を測る試験、日本(人)の生活習慣や日本人の典型的な行動パターンや言語習慣を理解して摩擦が起きないように適切な行動や発言ができるかどうか確かめる試験が実施されることを提案させていただきたいと思っており、そのような日本語試験が早期に実施されることを望んでおります。

 申しわけありません、実は、ベトナムから日本への介護職ベトナム人技能実習生受け入れが相当難しいことの事情やその背景は、当エントリーで述べていることだけにとどまらないようです。ベトナムから日本への介護職ベトナム人技能実習生受け入れには、日本側の事情や問題だけではなく、ベトナム側の事情や問題もあるようです。

 エントリーを公表できるのがいつになるか定かではありませんが、ベトナム側の事情や問題等に触れた当エントリーの続編にあたるようなエントリーもまとめてみたいと思っています。


 大変すみません、当エントリーは、当社/当センターが2017年4月下旬の時点までに収集した情報にもとづき、まとめています。日本の介護業界の関係者の方々、学校関係者の方々、日本語教育関係者の方々からすれば、十分ではない点やご同意いただけない点等あるかもしれませんが、もしそのようにお感じになられたということでしたら、申しわけありません。

 当エントリーに関してご指摘やご意見、ご質問等ございましたら、当社/当センターのほうまでお問い合わせ、ご連絡いただけないでしょうか。

 当エントリーが、日本の介護業界関係者の方々、介護職の技能実習生の送り出し・受け入れをされている方々、介護職の技能実習生(候補者)への日本語教育に関わっていらっしゃる方々にとって、多少なりともご参考になれば、幸いです。

 よろしくお願いいたします。

関連情報

http://www.immi-moj.go.jp/hourei/h28_kaisei.html
平成28年入管法改正について

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00010.html
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案

http://www.ajha.or.jp/topics/jimukyoku/pdf/150305_4.pdf
外国人技能実習制度について
 全日本病院協会という団体がまとめた資料です。

http://www.roken.or.jp/member/wp-content/uploads/2015/03/26-453_bettenshiryo-.pdf
外国人技能実習制度について
 公益社団法人全国老人保健施設協会がまとめた資料のようです。

http://www.moj.go.jp/content/000124151.pdf
外国人介護人材の受入れについて
 全国老人保健施設協会がまとめた資料のようです。

http://www.care-news.jp/news/insurance/post_1252.html
レビュー2016 人材確保の切札?技能実習で外国人受入れへ
 シルバー産業新聞という情報提供を行うウェブサイトに掲載されている記事のようです。

http://www.acras.jp/?p=6239
厚労省技能実習介護」に関するページ開設(2017.1.6)
 一般社団法人アクラス日本語教育研究所の嶋田和子氏のブログ、エントリーです。

http://d.hatena.ne.jp/anhsao/20170418/
日本での介護職を希望するベトナム人留学生受け入れの際注意すべきことは?
 当社/当センターのブログ、エントリーです。介護職のベトナム人留学生受け入れのときに注意したほうがよいと思われる点をまとめています。

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