NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組に感じた違和感

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NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組に感じた違和感

 ベトナムハノイでは7月下旬に入り、ほぼ毎日のように降雨があり、多少は過ごしやすくなってきたように感じておりますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。

 2014年7月9日にNHKの「クローズアップ現代」という番組で、「アジア労働者争奪戦」というタイトルで外国人技能実習生の派遣事業を取り上げた内容が放映されたようで、その中でベトナムから海外に行く技能実習生のことが触れられていたようです。下記のURLにその番組の紹介があります。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3528.html
アジア労働者争奪戦

 J-castというニュースサイトにも上記の番組の内容をまとめた記事が掲載されています。記事のURLは、

http://www.j-cast.com/tv/2014/07/11210237.html
http://www.j-cast.com/tv/2014/07/11210237.html?p=2
アジア人労働者争奪戦!韓国・台湾に負け続ける日本―高い仲介手数料、短い滞在期間で魅力なし

です。

 NHKが外国人の技能実習生送り出し、日本での受け入れに関して、番組を制作、放映されて、日本人の多くの視聴者の方々のご関心を喚起したことは良いことだったのではないかと思っておりますが、ベトナムに関して取り上げられている内容や視点(の一部)に実態と大きくかけ離れていると思われる点があったため、大きな違和感を感じてしまいました。

 当エントリーでは、NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組で大きな違和感を感じたところを2点ほど取り上げます。

ベトナムから日本へ技能実習生で行くときにかかる費用は?

 NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組中で1番大きな違和感を感じた箇所は、番組にご出演された大学教授の方がベトナムから日本へ技能実習生で行くときにかかる費用として『やっぱり100万円程度から、場合によっては300万というような金額を聞くことだってあります』と発言されているところです。下記のURLでそのご発言の前後を確認することができます。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/etail02_3528_3.html

 ベトナムの送り出し機関の実情に詳しい複数の方々からは、「ベトナムから日本へ実習生で行くときにかかる費用は、かなり差があるが、だいたい30万円から100万円ぐらいが相場であろう」という情報をご提供いただきました。「クローズアップ現代」で出ていたベトナムから日本の「イニシャルコスト」の金額は現実的な数字とは考えにくい、とのことです。ただし、もしかしたら日本へ技能実習生に行くためにベトナム人から100万円以上徴収しているベトナムの送り出し機関もあるのかもしれない、とのことです。

 一方で、番組で紹介されていた日本へ実習に行くための「イニシャルコスト」の上限の数字である300万円ですが、300万円もかかるというのは非常に考えにくいのではないか、ということがあるようです。ベトナムから日本へ技能実習生として行くために300万円もかかるようであれば、日本へ技能実習生で行ってもまったく金銭的なメリットがないために、技能実習生で行く人は皆無になるだろうから現実的な数字ではない、とのことです。ベトナムの送り出し機関の実情に詳しい方によると、ベトナムから日本へ技能実習生として行くために300万円も家族が準備できるようであれば、そもそも技能実習生として日本へお金を稼ぎに行くことを(ほとんど)考えることはないだろう、ということも指摘されていました。

 ご参考までに、当社/当センターの知人の方でベトナムの送り出し機関に勤務されている方のお一人からお聞きしたところによると、その送り出し機関では、日本へ行くベトナム人から3000USDから5000USDの費用を手続き料金として支払ってもらっているとのことで(技能実習生の職種によって異なるようです)、日本側で禁止されている保証金等の費用を一切徴収していない、とのことです。ベトナムの送り出し機関の中では、良心的に経営されているところのようです。

ほんとうにベトナムでは日本へ技能実習で行くより、台湾や韓国に単純労働で行くほうが人気があるのか?!

 大きな違和感を感じたもう1つの点として、次のようなこともあります。ベトナムの送り出し機関の実情に詳しい複数の方々からは、ベトナムでは日本へ技能実習へ行ったほうが月収が高いので、台湾や韓国に行くより人気があるということをお聞きしております。他方、NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組中では、ベトナム人の間では日本は技能実習制度では3年間しか働けないので台湾や韓国より人気がないという印象を与えるような取り上げ方をしているようでした。先にご紹介したNHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組では、ベトナムの仲介業者から『日本は滞在できる期間が3年と短く、労働者にとって収入面のメリットが少ないと苦言を呈されました』という一文がありますし、また、別のNHKのニュース番組、

http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2014/06/0626.html
アジア外国人労働者争奪戦(1) 最前線ベトナムで苦戦する日本

においても、ほぼ同じような取り上げられた方がされたようです。

 大変すみません、韓国に関しては詳しいことをよく把握していないのですが、台湾の場合、ベトナムから台湾に行って単純労働をするベトナム人の給料は(日本の技能実習生と比較して)それほど高くないため、3年間労働しても日本円で数十万ぐらいしか貯金することができないと聞いております。台湾で単純労働に従事するベトナム人の給料は日本の技能実習生と比較してそれほど高くなく、3年間労働しても日本円で数十万ぐらい貯金するのがせいぜいであるようであるため、(同一期間で比較すると)より稼げる日本のほうが人気があるようです。

 愛知県で行政書士をされている柴田氏のTwitterでのご教示(http://twitter.com/anhsao/status/489416422322233344)によると、

日本の技能実習生だと手取り月10万円位、台湾や韓国だと手取り月5万円位でしょうから、やっぱ日本のほうが人気あるはずです。外国人は就労可能年数より収入を重視すると思います

とのことです。

 前述の通り、ベトナムの送り出し機関の実情に詳しい複数の方々からは、ベトナムでは日本へ技能実習へ行ったほうが月収が高いので、台湾や韓国に単純労働で行くより人気があるということもお聞きしております。

 NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組では、ベトナムの仲介業者の『労働者たちは、もっと長く日本に滞在したいと希望している。また1回限りでなく、再入国も認めてほしい。』という発言も紹介されていて、それはそれで実習生として日本へ行くベトナム人のホンネなのでしょうが、現在の労働環境でも、日本の技能実習で得られる手取りの給料は台湾、韓国と比べて比較的高く、台湾、韓国での単純労働と比較して短期間でより多くのお金が稼げるということで、日本の技能実習生のほうが人気があるということはあるようです。


 大変失礼なご指摘で申しわけありませんが、上記の2点に関して、NHKの記者の方々のご取材、番組に関与されている識者の方々のご認識はかならずしも十分ではなかったということではないでしょうか。

 NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組では正面から取り上げられなかった大きな問題の1つとして、ベトナム人を含む外国人技能実習生の日本での仕事の多くが実質的には単純労働に他ならないこと、つまり、実習という名目で働いているにもかかわらず全作業に占める単純作業の割合が高く、会社側からすると3年間低賃金で作業してくれる労働者として活用されてしまっていることがあるようです。そして、日本からベトナムに帰国後に日本で実習生として仕事したことはほとんど活かせない、活かされていないようです。ベトナムにおいて帰国後日本での実習という建前がほとんど成立していないことを意味するため、より本質的な問題かもしれません。また、最近の外国人技能実習生の受け入れ拡大をめぐる動向は不透明な部分が多く、国際的な批判を浴びてもしかたがないのではないかと思われる一面もあるようです。

 なお、当社/当センターブログの以前のエントリーで恐縮ですが、ベトナム人技能実習生に関しては下記のエントリーも掲載しております。

http://d.hatena.ne.jp/anhsao/20131224
近年のベトナム技能実習生(研修生)派遣機関の動向の概要――主に日本語教育に関して

 当エントリーが日本やベトナム技能実習生関連事業に関わる方々、ベトナム人技能実習生のことにご関心をお持ちの方々、そして、NHKの「クローズアップ現代」7月9日放映の番組をご覧になった方々、番組の制作に関わった方々のご参考になれば幸いです。 

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