日本で「偽装留学生」問題を追っている出井氏のベトナム訪問記事に関して
Anh Sao Co.,ltd(アンサオ)/のぞみ日本語センターです。ベトナムの首都ハノイ、ベトナム北部で翻訳・通訳、コンサルティング・リサーチ、教育・研修等のサービスをご提供しています。
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日本で「偽装留学生」問題を追っている出井氏のベトナム訪問記事に関して
留学資金が足りないにもかかわらず無理な形で日本に私費留学している外国人私費留学生の悲惨な境遇や悪質な日本語学校の存在を取り上げ一時期大きな話題になった『ルポ ニッポン絶望工場』という書籍の著者、そして、「偽装留学生」を追った雑誌記事の執筆者と知られている出井康博氏が、ベトナムを訪れたときのことを株式会社ウェッジのウェブサイトに4回に分けて記事にされていました。下記の連載記事です。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14168
なぜ、日本は「偽装留学生」大国になったのか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14169
ベトナム人が夢見る「1カ月で年収が稼げる国」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14170
なぜベトナム人青年の家族は「一家離散」となったのか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14171
ベトナム人の「親日」はいつまで続くのか?
連載記事で注目すべきところ
4本の連載記事の中で、第3回の記事
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14170
なぜベトナム人青年の家族は「一家離散」となったのか?
は、日本の日本語学校から失踪した元留学生のベトナム人が抱えていた事情やタイビン省の地方農村の様子もわかるもので、とても良い記事だったように思われます。
ただ、第3回の記事は興味深く読んだのですが、第3回の記事の周辺事情や背景に迫る内容が第1回、第2回、第4回に見当たらないようで、当社/当センターにとってその点は物足りなさを感じさせられました。
当社/当センターが把握している範囲では、日本の相当数の日本語学校は、特に2012年以降、学校により、時期により、第3回の記事のタンさんのような人を相当の人数受け入れてきたのではないかと思われます。第1回の記事のタイトルに「なぜ、日本は『偽装留学生』大国になったのか?」とあったもので、その当時、日本語学校側がどのようなチェックをしていたのか、そして、審査を行う立場の入国管理局がどのような審査をしていたのか、どのようなところに大きな問題があったのか、そのあたりのところまで踏み込む記事、迫る記事なのかもしれないと予想していたもので、そのようなことが取り上げられていない(ようである)ことを残念に感じました。
大よそ一昔前、二昔前の古色蒼然とした認識に基づく一文
申し上げにくいことなのですが、第1回、第2回、第4回の記事で出井氏が書かれていたベトナム事情に関する情報は、事実誤認と思われかねないような古びてしまっている情報や誤解を生みかねない不明確な情報が一部に含まれているように思われました。
その典型的な例は、第2回の記事
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14169?page=2
の中段あたりで、
「20万〜30万円」といえば、ベトナム庶民の年収に匹敵する金額だ。
と書かれているところです。前後に関連する記述がなく、その1文しかないようなのですが、第2回の記事のタイトルが「ベトナム人が夢見る『1カ月で年収が稼げる国』」とあるので、タイトルを支えるポイントになる重要な一文なのではないかと思われます。
当社/当センターが把握している範囲では、現時点(2018年の時点)で、ハノイやホーチミン市では、(日系企業も含む)外資系企業の会社員も、ベトナム企業の会社員も、20歳代、30歳代で日本円で数万円〜十数万円相当のサラリーをもらっている人が相当多いようであり、会社や公的機関でもらうサラリーの他に副業をしている人も少なくないようです。
そして、現時点(2018年の時点)で、ベトナム北部の地方都市で日本円で月2万円〜2.5万円に相当するぐらいの給料というのは、仕事を始めたばかりのあまり経験がない若い人が我慢できるというぐらいの水準の給料のようであり、ベトナム北部のそこそこの地方都市やその周辺地帯で労働者として働いている一般のベトナム人にとっては、もっと給料をもらわないとやっていけない、割に合わないという金額なのではないかと思われます。
『「20万〜30万円」といえば、ベトナム庶民の年収に匹敵する金額だ。』ということが成り立ちそうなのは、ベトナム北部や中部の山間や僻地で貧しい生活を強いられているベトナム人、特に少数民族ということなら、十分にあり得ることのように思われるので、まったくの見当違いというわけではないようです。しかし、ハノイ市を取り上げている記事の中にそのような一文があるため、ハノイのことを取り上げたということでも、ベトナムの地方を取り上げたということでも、大よそ一昔前、二昔前ぐらいの古色蒼然とした情報なのではないかということは否めないのではないかと思いました。
ベトナム在住が比較的長い複数の日本人の方々も、上記の一文に関して大きな違和感を持たれていたようで、当社/当センターがツイッター等のSNSをチェックした範囲で、出井氏の上記の記事の該当箇所に関して、
- 庶民とは地方の労働者のことなのか?
- いい加減な記事。「ベトナム庶民」とひとくくりにしているのが適当さを表してる。
- 日本で流れてるベトナム記事の中にはとんでもないものが相当数ある。、、ベトナムに来て現地の人に確認しに来たのかと思ったら、自分たちの書きたいこと以外は「それは必要ない」と言う。
- ベトナム南部なら、地方で年収20万〜30万円というケースはないわけではないだろうが、少ないと思う。
というようなご感想やご意見を述べられている方々がいました。(大変すみません、文意を可能なかぎり損ねないように注意し、当社/当センターのほうで表現等を改変したものを掲載しています。)
実は、出井氏は第3回の記事で『ベトナムの賃金は日本よりはずっと安く、ハノイのような都市部でも3〜4万円といったところだ。それでも仕事は見つかるため、多額の借金を背負ってまで日本へ「留学」しようとはしない』ということも書かれているようですが、記事を読まれた大半の方々にとっては第2回のタイトルとも関連している上記の『「20万〜30万円」といえば、ベトナム庶民の年収に匹敵する金額だ。』という箇所のインパクトが強いのだろうと思っています。
その他の点として、第2回の記事では、
という箇所があるようです。上記のその箇所で『日本語学校』が意味するのが日本語教育がメインの事業である日本語センターなのか、または、日本留学エージェントの日本語センターなのか、技能実習生送り出し機関の日本語センターなのかということがはっきりと書かれていないばかりか、おそらく出井氏もきちんと確かめられてはいないのではないかと推測しています。仮に書かれている字句通りに「日本語学校」であるということなら、1番目の日本語教育がメインの事業である日本語センターということに該当するのでしょうが、ハノイで日本語教育サービスで稼ぐというのは非常に大変なことで、もし「日本語学校」で『1億円以上も稼いだと豪語している日本人』がほんとうに存在しているのなら、そのような人はたぶんにハッタリ屋か法螺吹きの類なのではないでしょうか。
ベトナムは親日(国)なのか?
当社/当センターとの見解の相違がある点として、第4回
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14171
ベトナム人の「親日」はいつまで続くのか?
で、出井氏がベトナム人は「親日」であるということを前提に話を進めている(ようである)ということがあります。
当社/当センターはハノイやベトナム北部で数年間以上日本語教育を行ってきましたし、翻訳サービスや通訳サービスなどの日本語に関連する事業もしているのですが、そのような当社/当センターからみても、日本語を学習しているベトナム人や日本のことに関心があるベトナム人を別とすれば、ベトナム人やベトナムという国が特に親日(国)であるとは言えないのではないかと思っています。日本のことや日本人、日本語に関心、興味があるベトナム人よりも、日本に関することにあまり関心がない、興味がないベトナム人のほうが圧倒的に多いようだ、ということを日頃から実感しています。そのようなことがあるもので、第4回の記事でベトナム人が親日であるということが前提になっているようであることは不思議な感じがしました。
第4回の記事で取り上げられている日本製品に関して、ベトナムで日本ブランドが信奉されているようなものもあるのは確かですが、家庭用電気製品や携帯電話などについては、韓国メーカーや中国メーカーが日本メーカーのシェアを奪っていった状況を目撃しています。ベトナムにいらっしゃった方々でホーチミン市やハノイ市内の大型電気量販店にいらっしゃった方々はよくご存知ではないかと思いますが、だいたいの大型電気量販店の店舗ではサムスンやLGといった韓国メーカーの製品がお店の一番良い場所を占めていることが多く、やや片隅で何とかがんばっている日本の大手メーカーの製品群を圧倒しているということがあるようです(SONYの大型テレビなど例外的に目玉商品的な取り扱いの製品はあることはありますが、少数のようです)。
第4回の記事の末尾には、
「留学生」として出稼ぎにやってくるベトナム人の多くは、日本で暮らすうちこの国を嫌いになっていく。借金に頼った留学費用の返済と学費の支払いのため、低賃金・重労働のアルバイトに酷使されるからである。借金返済に追われ、窃盗などの犯罪に走る留学生も増えている。ベトナムにおける対日感情を悪化させないためにも、“偽装留学生”の流入は早急に止める必要がある。
とあります。出井氏の上記箇所での主張にはごもっともな点はあると思った一方で、ベトナムが親日(国)だというのは日本(人)の思い込みであることが多いように思われ、出井氏もそのような思い込みにとらわれていてそのように書かれたのか、または、ベトナムに親日(国)であってもらいたいという思いを込めて書かれたのか、気になりました。
最後に
繰り返しになりますが、第1回、第2回、第4回はそれほどではないように思われるものの、出井氏の連載記事で第3回の記事は、タイビン省の地方農村まで足を運ばれたのであろうということもあり、迫力を感じ、興味深く読ませていただきました。
しかし、今回の連載記事は、全体的な印象として、出井氏が書いている既出の取材記事をなぞるような構成だったように感じられ、出井氏には大変失礼かとは存じますが、(第3回以外は)ワンパターンでやや退屈だった、という印象を受けてしまいました。
前述したように、特に2011年に発生した東日本震災が起きた翌年(2012年)以降、日本の相当数の日本語学校は第3回の記事に登場するタンさんのようなベトナム人を私費留学生として相当の多人数受け入れてきた(ようである)ということがあります。その当時から現在にかけての日本語学校側のチェック体制や入国管理局の審査体制に大きな問題があったのであろうことはほぼ間違いないことのように思われるのですが、出井氏には今後その核心により踏み込み迫るご取材、記事のご執筆を期待しています。
なお、現在、日本には出井氏が「偽装留学生」と呼ぶようなベトナム人が私費留学生として少なからず日本語学校や専門学校などに在籍している(ようである)一方で、ベトナム人私費留学生でそれなり以上の学習意欲や学習能力と私費留学できるぐらいの留学資金を持って日本の日本語学校や専門学校、短大、大学に私費留学している人もけっして少なくはないようです。当エントリーをお読みいただいている方々の多くはすでにご存じのことかと思われますが、そのことを付記しておきます。
関連情報
当社/当センターのブログ、下記エントリー、
http://d.hatena.ne.jp/anhsao/20171207
2017年12月5日NHKクローズアップ現代+でベトナム人私費留学生をめぐる問題が取り上げられたようです(2017年12月7日)
では、出井氏が出演された昨年12月(2017年12月)の「NHKクローズアップ現代+」の番組に関して取り上げています。ご関心やご興味をお持ちの方々、ご参照いただければ幸いです。
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